2006年 07月 24日
レコーディングスタジオの業務用コンソールとして、歓呼たる地位と厚い信頼を得ている「Solid Stete Logic(以下、SSL」社から、同社純正のDAW用のプラグインが発売されるというニュースには、私も大変驚きました。 数ヶ月前から「SSL」のWEBサイトで、LMC-1というフリーウェアのコンプレッサー・プラグインが配布されておりますが、今回発売された「Duende(デュエンデ)」という製品は、FireWire接続、1UラックマウントのDSPプラットフォームと、そのDSP上で動作するプラグインで構成されています。 TC ElectronicのPowerCore FireWireなどと同じ発想の製品と言っていいでしょう。 現状ではMac OS X 10.4.4以上(Power Macのみ、Intel Macには近日対応)、Audio UnitsとVSTフォーマットに対応、付属するVST-RTAS Adapterを使用することで、RTASでの使用も可能になります。 (Windowsへの対応は、2006年後半を予定。) 付属するプラグインは、「Channel Strip(EQ&Dynamics)」と「Bus Compressor」の2種類のみです。 同種の製品であるPowerCoreやUAD-1と比べると、バリーエーションという点では見劣りするようにも思えますが、この2種のプラグインは、「SSL」社の最高峰コンソールである「XL9000K」のサウンドをシミュレートした最新デジタルコンソール、「C200」のチャンネル・ストリップのアルゴリズムをそのままプラグイン化したものなのです。 つまり「SSL」の最高峰コンソールのチャンネル・ストリップを、ご自宅のDAW上で使用できるというわけです。 私自身は、「SSL」のコンソールを使ったミックスはもちろん経験したことがありませんが、「悪かろうはずがない」ことは容易に想像できます。 「プロサウンド」誌の8月号において「SSL」の本社スタッフであるジェームス・モトリー氏は、「Duendeのサウンドはイミューレーションではなく”本物”である」と明言しております。 そのサウンドは如何なるものなのか、早速検証してみました。 付属するインストーラーからインストールを行い、「Duende」をFireWire接続し、「Duende」の電源をオン、これだけで使用可能になります。 FireWire接続はBusパワーでも大丈夫です。 4ピンでのFireWire接続も考慮し、電源アダプターも付属はしておりますが、Busパワーでも問題なく使用できるとのことです。 Logic上でそのチャンネル・ストリップを立ち上げてみると、ダイナミクスのカーブやEQのカーブをグラフィカルに表示してくれる今時のプラグインとは違い、基本つまみのみのシンプルなプラグインであることが分かります。 プリセットも付属しておりませんので、コンプやEQの操作にある程度慣れている方でないと、最初は取っ付きにくいかもしれません。 しかしいざそのつまみを動かしてみると、「Duende」が「SSL」純正のプロダクトであることを思い知らされます。 私自身は「SSL」のコンソールを操作したことがないことは先に述べましたが、本物との比較論といった次元でなくても、このプラグインがいかに素晴らしい仕上がりであるか、すぐにわかりました。 DAW上でEQを掛けるとき、高域を上げるのを躊躇することはありませんか? あるトラックの音の抜けをもう少し良くしたいといった時、思わずEQで高域を上げてしまいますが、音の抜けが良くなるというより、どうもギラギラした音になってしまい、思った効果にならない時があります。 もちろん私のテクニックの未熟さ故ではあるのですが、その昔、アナログコンソールのEQで高域を上げていた頃の感覚とは、微妙に違う時があるのです。 「Duende」のプラグインでは、この微妙な感覚のずれは全くありませんでした。 EQを使った時に、この帯域を、これくらいのQで、何db上げるといった操作で出てくる音は、何の違和感もなくその効果が反映された音になっています。 つまみを極端な値に設定したとしても、その効果がきちんと反映されるだけで、妙にギラギラしたり、変に音痩せしたりすることはありません。 これはダイナミクス部も同様で、変に音が潰れて引っ込んでしまったり、余計に音圧が上がってバランスが崩れたりするのではなく、スレッショルドがこの値で、レシオがこれぐらいなら、これぐらい潰れるという感覚が、原音のニュアンスを損なわずにきちんと再現されます。 「SSL」のコンソールを未経験の私でも、「Duende」のプラグインは「本物のSSL」というのが、非常に納得できる効果です。 文章だけで書いていると何だか当たり前のようにも聞こえますが、飛び道具的な効果のプラグインも多い中、ハイクオリティなアナログコンソールと同様の効果のチャンネル・ストリップが、こんなにも重宝するとは思いませんでした。 今まで、ドラム系音源にはこのコンプ、ピアノ音源にはこのEQといった具合に、プラグインの特性とキャラクターの違いで、数種のプラグインを何となく使い分けていたのです。 「Duende」には、基本的なEQとコンプは、DSPの許す限り「Duende」の物を使いたいと思わせるものがあります。 ちなみに「Duende」1台で、44.1kHz/48kHz時にはモノラル32ch分(ステレオ16ch分)のチャンネル・ストリップの使用が可能です。 88.2kHz/96kHz時には、その半分になります。 DSPプラグイン使用時のCPU負荷も非常に低く、ノートでの使用も十分可能でしょう。 PowerCoreやUAD-1との併用も試してみました。 それぞれのDSPを全て使い切るという極端な検証は行いませんでしたが、特に問題はなさそうです。 ただし、DuendeにオーディオインターフェースをFireWire、 おまけにPowerCoreもFireWireで接続となると、信号のやり取りがFireWireの帯域としてかなりつらそうです。 オーディオインターフェースかPowerCoreはPCI接続にした方がいいと思います。 前述した通り、VST-RTAS Adapterを使ってRTAS化することで、Pro Tools上で使用することも可能です。 「Duende」の性格上、TDM環境で使用したいという方も多いと思いますが、「Duende」はFireWire接続ですので、PCIスロットが埋まっている方や、拡張シャーシをお使いの方でもアドオンすることが可能なのです。 TDM環境においては、遅延補正エンジンをオンにすることで、DSPプラグインにつきもののレイテンシーを気にせず使用することができます。 Pro Tools LEの場合は、「Time Adjuster」プラグインを使った手動での補正が必要ですが、「Duende」の取説にはその補正の仕方が詳しく書かれています。 正直、同種の製品と比較すると決してお手頃な価格ではありませんが、「Duende」を導入することで、数千万円の最高峰アナログコンソールのチャンネル・ストリップを、プラグインとして使用することが可能になるのです。 この手のうたい文句と製品のクオリティが一致しない物も多数存在するように思いますが、そこはさすがに「SSL」、期待を裏切らない素晴らしい製品です。 (私も欲しい!!)
by music_drec
| 2006-07-24 03:41
| ソフトウェア検証
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